さて、先にあげた「ママゴン猛襲」に話をもどしてみましょう。もしもこの絵が、シッチャカメッチャカで、何をかいたんだかわからなければ、おもしろがるのはきみ一人ということになります。しかし、その似顔絵がおかあさんにそっくりだったとしたら、それを見たおとうさんもクスクス笑い出すでしょう。さらに、ここからストーリーを発展させ、ママゴンの活躍ぶりをドラマチックに、ダイナミックに、あるいはロマンチックにかきあげれば、きみの友だちもおもしろがってくれるでしょう。さらにさらに、そのストーリーが大傑作であれば、印刷されて雑誌にのって、日本中の人がおもしろがってくれるかもしれません。ただし、おかあさん以外は、ですがね……。(はじめに より)


藤子・F・不二雄のまんが技法 (小学館文庫)
出先で偶然見つけた古本です。今更絵の練習をするつもりはありませんが、ストーリー作りの参考になりそうだったので購入しました。

わりと低年齢向けなのか、とても判りやすいです。難しい専門用語を多用せず、読み手に理解しやすいたとえ話を多く用いているのは、さすがにドラえもんの作者さんです。
マンガの技法が映画から取り入れられているという解説も面白かったです。
表現から無駄を取り除き、起承転結をはっきりさせるという基礎的なアドバイスを載せる一方で、行き当たりばったり的なストーリー発案の話など、ガチガチなマニュアルにはなっていません。
ドラえもんの連載予告には、机と開いた引き出しが描かれていただけで、その時点ではドラえもんの発想もなかったというのは有名な話ですよね。

その一方で、ものがたりを「人に見せる」上での心構え的な言葉がちらちらちりばめられていて、判ってはいたことでもこれが藤子・F・不二雄氏の言葉だと思うと、元気づけられる部分が大きいですね。


自分の楽しみとしてかき、自分一人で読んで楽しんでいるうちは、そのおもしろさというものが、自分にだけ通用するもので十分なのです。ところが、友だちにも見せて感心させたいとか、あるいはもっと進んで、同人誌に載せたいとかになってくると、少なくとも仲間内で通用するだけのおもしろさが必要になってきます。
(中略)
ところで、さらに発展して、プロになるということは、どういうことなのでしょうか。(中略)読者というのは王さまで、その一人ひとりは、好みも違えば感性も違います。もちろん、その理解度も違うわけです。(第九章より)

全ての人を満足させることは誰にもできないと私は思っています。
なぜって、既存のものの中から、自分が満足するものを探すこと自体が難しいからです。
どこで折り合いをつけるか、あるいはどこまで貫くか、それが創作する人の個性というものにつながるのかも知れないですね。


siinaipqi